初回相談実施中
営業時間:9時~18時定休日:土日祝
途中から読み始められた方は第0話から読み進めて下さい。第0話へ
突然、訪れた島田君の退職。
みやび君にとっては突然のことかもしれないが、島田君にとっては考え続けてきた結果。
雇用する側は従業員の変化に敏感でなければいけない。従業員がどこへ向かっているのか知らなければいけない。
向かっている先が間違っていれば、教え導いてあげなければいけない。
これは雇用する側に求められる能力。
みやび君にとっては、初めての雇用のため、何をどうしていいのか分からなかった。「現場の仕事」を代わりにやってくれればいい。その程度に考え、流れに身を任せた。
「流れに身を任せた」を言い換えれば「自分の仕事を放棄」した。その対応が退職という結果につながった。
島田君と連絡がとれなくなって数カ月が経った。彼は今どこにいるのだろうか。
事件が起きた3日後に島田君から一通の手紙が届いた。退職したい旨、突然仕事を放棄して申し訳なかったというようなことが書いてあった。妻は税理士に島田君のことを相談し、何か手続きをしていたようだが詳しくは知らない。私はそれどころじゃなかったので詳しいことは知らない。
それから自分の仕事に加え、島田君の仕事をこなす日々が続いた。
私には余裕がなかった。山崎社長を含め迷惑をかけた人たちからの信頼を取り戻すべく、毎日、馬車馬のように働いた。しかし、もともと出来る私は、そつなく仕事をこなした。
多少、体調を崩す日はあったものの、我慢して仕事に打ち込んだ。
そして一人で見れる範囲まで徐々に仕事を減らし、元の状態に戻っていった。
島田君がいなくなり、しばらくすると独りになった実感がわいてくる。
仕事が落ち着いてきて、一息ついていると、この数か月間のことが思い出された。
・楽だ
・とにかく楽だ
・クレームはなくなった
・誰かに気を遣わなくていい
・仕事の段取りは自分だけでいい
・自分のことだけを考えていればいい
島田君が元気がなかったり、仕事が上手くいっていないときに励ますこともなくなった。新しい技術を覚えたいと言われ、手取り足取り教えることもなくなった。
■電話応対のやり方を教える必要もなくなった。
■「この領収書の精算…」経費の精算をする手間もなくなった。
■請求書の作成は自分のものだけでよくなり、面倒なやり取りから解放され、気ままに作れるようになった。
■給与計算という煩わしいこともしなくてもいいし、給与をいくらにするかを悩む必要もない。
■賞与の時期の憂鬱な気分も味わう必要がない。
精神的に楽になっただけではなく、事務作業も減った。一人で仕事をするメリットを感じる日々が続く。
最初から誰も雇わなきゃ良かった。そしたら、問題も起きなかったし、こんなに苦労することもなかった。もうクレームの対応するなんて嫌だし、「やる気がない」雰囲気を前面に出す島田君に苛立つこともなくなった。
なんて、平和な毎日だ!最高じゃないか!なんで人を雇おうなんて思ったんだ!私は間違っていた!
「ぷはぁぁぁ!!!」 リビングで缶ビールを一気に喉に流し込む。しばらく忙しい日が続いていたため妻は私に気を遣ってくれていた。ここ数日は平和な家庭環境が築けている。
妻と娘と3人で晩御飯を食べながら週末のおでかけの話をする。幸せだ。結局、私が手に入れたかったのは、これなのだ。
売上を増やそうだなんて欲深いことを考えるからおかしくなるのだ。身の丈にあった仕事をすればいいのだ。
そう思う日々が続いた。
クリスマスが終わり、年が明け、新しい年が始まった。平和な日が続いている。今では税理士と契約しているから、これから始まる確定申告について悩む必要もない。税理士に任せれば代わりにやってくれる。
自分の代わりに働いてくれる人がいるなんて有難い。島田君みたいに手取り足取り教える必要があるどころか、自分が教えられる側の立場だ。
お金を払えば完璧に仕事をこなしてくれる。当たり前だと思っていたが、従業員を雇って分かった。お金を払えば仕事をこなしてくれるわけではない、ことを。
資料の提出を全て終え、税理士からの報告を待つのみとなった。1カ月程経ったあと、税理士から連絡があった。
今では、所得税のほかに、住民税や事業税、国民健康保険料などの支払いがあることは理解している。税理士と付き合うようになってから少しずつだが、意識し覚えることができるようになってきた。自分で計算することはできないが、それを意識して資金繰りを考える必要があることを学んできた。おおよその金額を聞いて、私はそれに合わせて資金繰りをする。それだけで十分だった。
当然、今回の確定申告で今後払う税金の金額を聞く。
税理士も確定申告時期は忙しいようで、チャットで報告がきた。気になることがあれば電話するようにしているが、慣れてくればチャットでのやり取りで十分だった。
税金の金額を見る。高い。高い。やはり高い。これらの税金を払ったら、全く貯蓄が増えない。つまり、働いても働いても一向に生活は豊かにならないのだ。
単価をあげて利益は出るようになったものの、そのほとんどが税金の支払いに消えていき、手元には残らない。1年目に自分でした確定申告を思い出す。
あの時と違うのは、なんとか税金は払っていけるものの、払って終わり。現金が増加している感覚がない。
そうは言え、仕事はすこぶる順調だ。自分の得意なことを前面に出して営業してからは、前とは違う。得意先からは期待されることが増えたし、売上も増えた。
客観的にはうまくいっているようように見えるが、財布事情は豊かとはいえない。不安がないわけじゃない。
毎日、働き、仕事も沢山ある。それなのに、どうしてなんだろう。不思議で仕方がないため、税理士に確認しにいくことにした。
がんばれ!みやび君
職員の退職は避けて通れないもの。
キャリアアップを目指したり、独立を目指すという前向きな退職もあれば、出産や家族の転勤など生活環境に合わせた退職もあれば、給料が安い、人間関係が悪い、職場環境が悪いという理由で退職する場合もある。
自分ではどうしようもないことでの退職は止められないが、自分の力で変えられるものは変えなければいけない。「したほうがよい」ではなく「しなければいけない」
どのような会社にしていきたいのか?経営者であれば問い続けなければいけないことだし、決めなければいけない。正しい答えなどあるわけではなく、自分がその会社を作らなければいけない。
さて、みやび君は、従業員であった島田君が退職したあとの生活を満喫している。
自分一人だと、気を遣う相手がおらず、自分が出来る仕事の範囲内でやればいい。大きな背伸びも必要ないし、自分のできること、これまで経験してきた同じことを繰り返す毎日だ。
それをどう感じるかは、人それぞれだが、多くの人は「なんて楽なんだ」と思う。従業員がいた時は、多くのことを気にかけなければいけなかったし、思い通りにいかないことに飽き飽きしていたと思う。
それがどうだ!従業員がいなくなれば「なんて楽なんだ!」 全てから解放された気分だ!
そして、その日々を生きていると、ふと思うのだ。
何かがおかしい。時間が戻っているように感じる。
そう、以前に感じていた問題が再発するのだ。
目の前の問題は消え去ったが、昔にあったものが再度現れるのだ。
問題を解決したくて従業員を採用したのに、別の新しい問題が発生した。その新しい問題がなくなったら、解決しようとした問題が戻ってきた。面白いもので、問題が変わっただけで、問題がなくなったわけではない。
経営とは問題解決の連続だ。みやび君は、それを学習しているところなのだ。
前に進めば、問題が発生する。その問題を解決して、前に進めば新しい問題が発生する。問題のもぐら叩きをずっと繰り返すのが経営というもの。
逆に言えば、そのもぐら叩きを楽しめなければ、続けることも、発展させることも難しい。
経営者の中には経営を、ロールプレイングゲームだという人もいる。
経営者は問題解決能力に優れる必要があるのだ。
それを、問題があったら、そこから避けるような人には経営者は務まらない。サラリーマンに戻ったほうがいい。
もちろん、人を雇うことが正解なわけではない。人を雇わないことも正解。でも、何か問題があれば、それを解決していく、解決し続けるのは経営者の大事な役割。
自分の代わりになると思って人を採用したのに、代わりになるどころか、自分の仕事量が増えて、余計に忙しくなった。これはみやび君が経験したことだが、果たしてこれの何が間違っていたのか。みやび君はどうしたらよかったのか?
あなたはどう思う?
とにかく、経営者は問題解決能力に優れている必要がある。自分に解決できないことは起きないわけだから、やればできるはず。
みやび君は、営業マンとしての自分は成長することができ、自分が最低限食っていく分の稼ぎは得ることに成功した。だから、食うには困らない。だけど、新たに現れた問題に対処できない。
人を雇うと、自分だけではなく、その人を通して成果を上げる方法を学ぶ必要がある。
自分だけがやれればいい、自分だけ成果が上がればいい。その世界から、人を通して成果を上げる。全く別のゲームに変化する。
それに気が付き、その能力を高めなければ、次の道筋は見えてこない。一人で出来ることには限界がある。その限界を突破するために、他人の力を必要とした。
しかし、その他人は自分の力になるどころか、邪魔ばかりしてくる。
・・・
「あの社員できない」
「教えてもできない」
「やる気がない」
「辞めさせたい」
・・・
よく聞く悩みです。「できない」社員でも「できる」ようにするのが経営者の仕事。「やる気のない」社員でも「やる」ようにするのが経営者の仕事。
そこに向き合わない限り、いつまで経っても人は成長しない。経営者は孤独なのだ。
■過去記事
■次回記事